イベント
シンポジウム:家族の変化と新しい時代のケアを考える(共催 公益財団法人 家計経済研究所)
- 日付:
- 2016年12月10日(土)
- 場所:
- 日本女子大学新泉山館
超高齢社会となった現在、介護を中心とした家族への「ケア」をめぐる課題が大きくなっています。介護保険施行後15年余りが過ぎ、サービスの選択肢が整備されてきました。その一方で、家族のあり方や価値観が多様化し、女性の就業の進展や雇用不安定化などにより、従来のような家族、特に女性を中心としたケア提供を前提とした体制は限界をむかえています。こうした時代や社会の変化に対応した新たなケアのあり方が求められています。
そこで、在宅を中心とする家族介護者のケアをめぐる現状と課題を、男性介護者(息子介護)や若者(ヤングケアラー)によるケア、さらには介護と育児というダブルケアなど、新たなケアの実態について多角的な視点から捉えること、さらに、家族ケアの実態から、求められる家族支援策、超高齢社会や家族ケアの今後についてともに考えることを目的として、このシンポジウムが開催されました。
<第1部> 基調講演
「介護する人(ケアラー)に社会的支援を」と題して日本女子大学の堀越栄子氏による基調講演をいただきました。一般社団法人「日本ケアラー連盟」および認定NPO法人「埼玉NPOセンター」でもご活躍されているお立場から、介護者の置かれている状況と介護者支援の取り組みが具体的に示されました。また、過去50年ほどの社会の変化をデータで確認しながら、①だれもが介護し、される時代になっていること、②ケアラーの実情がどのようなものか、③ケアラー支援の重要性についてのご説明をいただきました。
続いて、4人のパネリストから様々な角度からケアの実態とそこでの課題や求められる支援のあり方について報告がなされました。第1報告「在宅での家族介護の負担」では、法政大学の菊澤佐江子氏から、家族介護の負担の実態が報告されました。政府の全国調査データと家計経済研究所の調査データをふまえ、新しい家族状況に対応した介護の社会化を推進する必要があることが述べられました。
第2報告「ヤングケアラーとして見えたこと」では、草加市議会議員の井手大喜氏から、ご自身の16歳からの介護経験について報告がありました。ヤングケアラーが可視化されていない現実や、制度的支援もないまま友人たちのような学校生活や就職活動もできず「(自分だけ)離されていくな」という気持ちになったことなどが語られました。
第3報告「広がるダブルケアにどう向き合う?」では、NPO法人よこはま地域福祉研究センターの佐塚玲子氏より、子育てと介護の同時進行というご自身の経験や、地域での支援状況を踏まえて、ダブルケアに対応するにはケアサイクルを理解すること、公的サービスと民間サービスの併用活用、孤立化を避けることが重要であることが述べられました。
第4報告「男性性とケア―男の看方(みかた)とその見方」では東京都健康長寿医療センター研究所の平山亮氏から、息子である男性介護者へのインタビュー調査結果をもとにご報告いただきました。介護者に対する期待や要介護者の自立に対する期待がジェンダーによって異なり、この点を考慮しないとジェンダーの再生産につながるという大変興味深い結果が示されました。
<第2部> 全体討論
全体討論は、フロアからの質問に答えるところから始まりました。ケアラーのサポーター養成における研修内容について、ケアラー支援法案について、ケアラーズカフェへの参加者を増やす方法について、介護者を支援するうえで大切な視点についてなどの疑問に対してそれぞれの立場から具体的な回答がなされました。
最後に、介護者の支援に欠かせないのは、要介護者に対する質の高いケアが提供されることが基本であり、ケアラー自身が問題状況を発信することやケアをするための経済的基盤に関する議論が不可欠である点が確認され、多面的にケアを考える有意義な機会となりました。